2017年のノーベル生理学・医学賞は、体内時計を生み出す遺伝子とそのメカニズムを発見した米ブランダイス大学のホール博士とロスバシュ博士、ロックフェラー大学のヤング博士の3氏に授与されることになりました。
私たちの体は約24時間のリズムで変化しています。朝になると目が覚め、夜になると眠くなるなど、一般的に「体内時計」と呼ばれるこのしくみは、多くの生物に備わっています。しかし、体内時計のリズムがどのようなものかは長い間分かっていませんでしたが、その長年の謎を明らかにしたのが、今回のノーベル生理学・医学賞を受賞した3氏です。
体内時計の研究は植物から行われ、その始まりは1700年代にさかのぼります。
フランスの天文学者が植物を使った観察により、昼間に葉が開き夜になると葉が閉じる植物が一日中暗い場所に置いても同様に葉を開閉させることを発見しました。つまり、この植物は太陽の光の影響によって葉を開閉させるのではなく、自らのリズムをもとに葉の開閉のタイミングを決めていることを示しています。
しかし、このような事象があってもそのしくみは長く不明のままでした。体内時計の研究の突破口が開けたのは、1970年代の初めです。アメリカの物理学者と遺伝子学者がショウジョウバエに突然変異を誘発する物質を与え、その子孫2000匹の行動を観察すると、3匹だけが他のショウジョウバエと明らかに異なる行動パターンを持つことを発見しました。そして、その3匹の遺伝子を調べると、体内時計に作用する遺伝子が含まれていることが分かりました。
体内時計遺伝子の探索競争がある中、最終的に体内時計をつかさどる遺伝子を特定し、その働きを解明したのが今回ノーベル生理学・医学賞を受賞する3氏です。1980年代は、「period(per)遺伝子」を1990年代には「timeless(tim)遺伝子」を特定しました。では、これらの遺伝子はどのように約24時間のリズムを生み出しているのでしょうか。
ショウジョウバエの体内では、毎日、昼間になるとper遺伝子がPERタンパク質を、tim遺伝子がTIMタンパク質を作りだします。そして、夕方になると、生成されたこれらのたんぱく質が互いに結合して複合体になり、夜の間に核に移動しper遺伝子とtim遺伝子の活動を抑えます。朝を迎えショウジョウバエに光が当たると、複合体が分解を始めます。複合体は、昼間には完全に消失しますが、別のタンパク質の複合体がper遺伝子とtim遺伝子を活性化する作用が起こり、前述の通り、それぞれのタンパク質を活発につくり出します。
このように、細胞には約24時間のリズムを制御する遺伝子やタンパク質複合体が存在し、これらが、互いに作用し合うシステムを持っていることが分かったのです。
こうした遺伝子は人間にもあります。今後、体内時計のメカニズムの詳細にわかることで体内時計と健康とのかかわりの研究が急速に発展していくことでしょう。体内時計に関する研究は、健康管理や医療に革新をもたらす可能性を秘めています。
日本成人病予防協会 総務省認証 学術刊行物より