アルツハイマー病の予防は睡眠が鍵

近年、睡眠不足が蓄積する「睡眠負債」に注意が集まっています。睡眠負債は、生活の質や仕事のパフォーマンスを低下するだけでなく、さまざまな病気のリスクを高めることが知られています。特に、アルツハイマー病との関連性があることが分かっています。

 

●アルツハイマー病の原因

認知症の6~7割を占めるとされているアルツハイマー病は、異常なタンパク質であるアミロイドβが、約20年間に渡り徐々に脳内に蓄積することが原因の1つと考えられています。

アミロイドβが蓄積することで海馬が委縮し、脳の神経細胞が死滅していくことで、記憶障害や見当識障害などの症状が現れます。進行を抑えるための目的の薬はありますが、根本的に治す薬は現時点ではありません。よって、死滅した脳細胞は元に戻らず治療が困難なため、予防が重要とされています。

 

●睡眠不足はアルツハイマー病のリスクを高める

アミロイドβは、脳が活性化することでつくられるため、完全にゼロにすることはできません。つまり、排出するしかありません。実は、アミロイドと呼ばれる老廃物の一種は、脳以外の全身でも作られているのですが、それらはリンパが張り巡らされていることによって、除去されています。脳の場合はというと、近年の研究により、寝ている間にアミロイドβなどの老廃物を排出することが分かってきました。寝ている間に脳が縮んで隙間ができることにより、老廃物が脳脊髄液に染み出して排出されるのです。つまり、脳は日々寝ている間に、老廃物を排出して大掃除をしているのです。

睡眠時間を十分に確保することは、脳の老廃物であるアミロイドβを排出し、アルツハイマーの発症を予防するためにとても大切だといえます。反対に睡眠不足になると、アミロイドβの排出が十分に行われず蓄積し、結果としてアルツハイマー型認知症になるリスクが高ってしまうのです。

 

●原因物質を血液1滴から判別する新技術に期待

アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβの検査は、一人当たり数万~数十万円もかかる「脳画像検査(アミロイドPET)や「脳脊髄液検査(背骨の間に針を入れて脳脊髄液を採取する)」などの特殊な検査方法が用いられまています。今までは、アミロイドβは血液中にわずかな量しか含まれていないことから、検査で調べることは非常に難しとされていました。

しかし、新しい技術では、アミロイドβによって変動する複数の関連物質であるポリペプチド(タンパク質の断片)の割合から、脳内のアミロイドβの蓄積度合いを推定できる上、わずか0.5㏄の血液で90%程度の精度で測定できる方法を開発しました。このような簡単な検査方法ができたことで、費用や体への負担が少ないだけでなく、発病前の人の脳内にどの程度アミロイドβが蓄積されているかが測定でき、根本的な治療薬の開発の進歩にもつながっていくと期待されています。

 

●週末に寝だめしてない?

現在の生活の中で睡眠負債があるかどうかを判断する手掛かりの1つとして、週末に「寝だめ」をしているかがあります。普段の睡眠で睡眠負債を抱えていると、休日の寝だめに頼ってしまいます。休日の寝だめは生活のリズムを乱し、かえって平日の睡眠に支障をきたし、

負債を増やします。ではどのように睡眠負債を返済していけばよいかいうと、それは平日の睡眠時間を少し伸ばすことです。そして、休日の睡眠時間は平日と同じ、または伸ばしても2時間以内にするとよいでしょう。また、なかなか眠れないと思っている方は、下記の中で生活に取り入れやすいものを実践してみましょう。

 

<良い睡眠をとるための行動>

  • 朝起きたら太陽の光を浴びる
  • 寝る約1時間前にお風呂に入る
  • 寝る前のスマートフォンの使用は避ける
  • 寝なければと意識しすぎない

日本成人病予防協会 総務省認証 学術刊行物より