フラを行うことでリラックスする1つの要因は、神経伝達物質の影響です。心の状態は、脳のネットワークにおいて放出される神経伝達物質の種類と量によって決まります。
神経伝達物質は、脳内で発生する電気信号が変換されたものです。神経細胞の軸索は末端で枝分かれをし、ほかの神経細胞の樹状突起へ向かって電気信号を送っています。軸索と樹状突起の末端にはそれぞれ「シナプス」と呼ばれる組織が存在していますが、シナプスの間には1万分の1ミリ程のすき間が空いており、電気信号はこのわずかなすき間を越えることができないため、電気信号の代わりにシナプス小胞から神経伝達物質が分泌され、化学信号として情報を伝えていきます。その情報伝達物質が、シナプスのすき間を飛び越えるのにかかる時間は約1000分の1秒です。その瞬間的な神経伝達物質の伝達によってほかの神経細胞に渡った化学信号は、再び電気信号へと戻ります。脳内では、このように電気信号と化学信号が巧みに変換されながら、無数の情報が伝えられています。神経伝達物質の量は多すぎても少なすぎても問題になるため、厳密にコントロールされています。
これまで百種類を超える神経伝達物質が見つかっていますが、主なものは、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、ギャバ、セロトニン、β-エンドルフィンなどです。これらの神経伝達物質は、車のアクセルとブレーキのようにコントロールさせれています。主にドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンが脳の興奮を高めるアクセルに相当し、ギャバ、セロトニン、β-エンドルフィンが神経の興奮を抑えるブレーキに相当します。
その中でも、フラと関係するドーパミン、β-エンドルフィン、セロトニンについて考えてみましょう。
●フラと「ドーパミン」の関係
ドーパミンは、前頭連合野の働きである思考や推測、判断力や情報処理能力などに影響し、ドーパミンの分泌が高まることで頭が冴え、学習能力が高まります。また、快感も得られるためやる気に満ち溢れます。その結果、モチベーションがどんどん上がっていきます。
フラのように発表会や大会があることは、目標設定をするきっかけとなり、モチベーションの維持に大きく影響しています。また、そこで上手く踊れた喜びが快感をもたらすのです。
●フラと「β‐エンドルフィン」の関係
β-エンドルフィンは脳内麻薬とも呼ばれ、多幸感をもたらし、痛みを和らがるモルヒネに似た効果のある神経伝達物質です。ゆったりとした音楽を聴いたり、美味しいものを食べたりした後に分泌が高まり、幸せな気持ちに包まれます。ランナーズ・ハイによる理由も、β-エンドルフィンによる作用だといわれています。
フラと「セロトニン」の関係
セロトニンは、別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、神経を安定させる働きを持つ神経伝達物質です。セロトニンが不足することで気分が低下し、うつ病の発症にもつながります。
セロトニンの分泌を高めるためには、フラなどのリズミカルな運動を行うとよいとされており、うつ病や不眠症などの精神疾患にも効果的だと考えられています。
そのほか、朝の太陽の光を浴びることや、セロトニンの原料となる必須アミノ酸のトリプトファンを食事から摂取することでも分泌が高まります。トリプトファンは肉や魚、大豆製品、乳製品などの食品に多く含まれています。毎日の食事にとりいれるよう心掛けましょう。
資料/日本成人病予防協会